【第1回本屋大賞受賞作品】数学を勉強していたらもっと楽しめたのかもしれない……「博士の愛した数式」を読んでの感想

心が洗われる」作品というのはきっとこういう作品のことを言うのだろう。本屋大賞第1回受賞作品に値する素晴らしい作品だった。

映画化もされ、発売当時にはかなり話題となったこの作品。もちろんこの作品のことは知っていて、いずれは読んでみたいとは思っていた。

しかし、タイトルの中に私が苦手な「数式」という言葉がが入っていたため、手に取るまで時間がかかってしまった。

この作品は事故で頭に重い障害を負ってしまった記憶が80分しか持たない数学者とそこへ家政婦としてやってきたシングルマザーとその子どもの交流を描いた物語である。

「たっぷり食べなくちゃいけないよ。子供は大きくなるのが仕事だ」

「最上の部位は最年少の者へ」

「子供の心配をするのが、親に課せられた一番の試練だと、誰かの本に書いてあった」

記憶が80分しか持たない数学者、通称「博士」の子どもに対する言動は子を持つ親として感心させられることばかりだった。
果たして自分が子どもに対して博士のように振る舞うことができているのだろうかと反省しきりだった。

友愛数」、「自然数」、「素数」、「完全数」など、分からない数学の用語が出てくるとページをめくる手を止めて用語の意味を調べながら読んだ。ある程度数学の知識がある人なら私のように分からない用語が出てくるたびに用語を調べながら読む必要もなく、「博士」の言う数字や公式の美しさ、言葉の意味や重みをしっかりと味わうことができたのかもしれない。

学生の時にもっと数学を勉強していればと後悔した。数学の知識があればより味わい深い作品になるのかもしれない。だたし、無くても十分に楽しむことができる作品だった。自分の子どもが大きくなったら読ませたい。


●作品データ
<発行年>
・2003年
<著者>
小川洋子
<発行元>
・新潮社


【バスケットボールの神様】映画「AIR/エア」を観ればわかる!ジョーダンは18歳の時から「偉大」だったのだ

「アルゴ」もそうだったがベン・アフレックは演じるだけではなく監督としても本当に素晴らしい映画を作る。

私の中学、高校時代はマイケル・ジョーダンの全盛期だった。まさにジョーダンとともに青春時代を送ったと言っても過言ではない。

当時、NHKBS放送ではジョーダンが所属するシカゴブルズを中心にNBAの試合が連日放送され、バスケ部ではなかった私はその試合を食い入るように見つめていた。

私はバスケ部に入れるようなイケてる生徒ではなかった。むしろスクールカーストの最下層にいて学校にいる時はなるべく目立たないように心掛けていたような人間だった。

したがって、イケてるバスケ部の同級生たちが制服のシャツの下にNBAのチームのロゴが入ったTシャツを着て、バスケシューズを履いて堂々と通学している様子がまぶしかった。

この映画を観ているとそんな当時の記憶が蘇って来て懐かしい気持ちになった。

この映画はバスケットボールの神様であるマイケル・ジョーダンのバスケットボールシューズ、「エアジョーダン」が誕生するまでを描いた作品である。

バスケットボールをしたことがない人でも一度は聞いたことがあるであろう「エアジョーダン」。

その誕生のために情熱を注いだ人たちの物語を観ればなぜマイケル・ジョーダンが18歳の時から「偉大」であり、今だに「特別」な存在なのかがわかるはずだ。


●作品データ
〈公開年/配信年〉
・2023年
〈製作国〉
アメリ
〈監督〉
ベン・アフレック
〈出演〉
マット・デイモンソニー・ヴァッカロ)
ベン・アフレック(フィル・ナイト)
ビオラデイビス(デロリス・ジョーダン)
クリス・タッカー(ハワード・ホワイト)
ジェイソン・ベイトマン(ロブ・ストラッサー)
〈配信サイト〉
Amazon Prime Video


【本】ガリレオシリーズ第9弾「沈黙のパレード」

久しぶりに読んだ「ガリレオ」だったが、やはり安定の面白さだった。

「加賀恭一郎」をシリーズを読めば阿部寛さんが思い浮かぶように「ガリレオ」シリーズを読めば自然と福山雅治さんや柴咲コウさんが思い浮かんでしまう。映像化されている作品が多い東野圭吾作品を読む時は作品の中の登場人物を具体的に思い浮かべることができるため、他の作品と比べて作品への没入度が高いような気がする。

今回も読み始めるとすぐに頭の中で福山さん演じる湯川学こと「ガリレオ」や柴咲コウさん演じる内海薫が動き始めた。

物語は行方不明となったある少女の遺体が発見されるところから始まる。逮捕歴のある容疑者が逮捕されるものの、証拠不十分ですぐに釈放されてしまう。ここから少女の家族や少女を慕う人たちの苦しい日々が始まる。しかし、その容疑者もまた何者かによって殺害されてしまう……。

物語の序盤は淡々と読み進めることができたのだが、中盤から後半にかけては読み進めるのがつらかった。なぜなら、今回、殺害されたのが殺されても仕方のないような極悪非道な男であり、その容疑者としてガリレオが追い詰めるのが「良い人」たちだからである。

ただし、今回のガリレオは「容疑者Xの献身」の時のように容疑者を追い詰めるものの、同じ轍は踏まずに最後は容疑者に対してある提案をする。「容疑者Xの献身」を読んでいる人にはここは痺れる場面だ。私も思わずニヤっとしてしまった。

物事の本質は上辺だけを見ているだけではわからない。物事の上辺だけを見て判断しがちな私たちに「もっと本質を見なさい!」とガリレオを通して警鐘を鳴らしているような気がした。

「本当のこと」が必ずしも「正しいこと」だとは限らないということを描いた物語だった。

ちなみに映画版はまだ観ていない。


●作品データ
<タイトル>
・沈黙のパレード
<著者>
東野圭吾
<発行年>
・2018年
<発行元>
文藝春秋

【映画】「ソー:ラブ&サンダー」

最近のマーベル作品は時間軸が交錯しているのできちんと時間軸を確認してからでないと話の流れが全く分からなくなってしまうのだが、この作品は「エンドゲーム」直後の話だったのですんなりと物語に入っていくことができた。

エンドゲームの後、ガーディアンズと一緒に旅に出たソーがまず取り組んだのが激しいダイエットだったというのには思わず笑ってしまったが、ギャグマンガのようだった前作「マイティ・ソー バトルロイヤル」と比べると数倍面白かった。

ガーディアンズとのやりとりも楽しいかった。ナタリー・ポートマンを始めとする初期メンバーも勢揃いで懐かしかったのだが、やはり敵役がクリスチャン・ベイルだと作品がビシッと締まる。

この映画で一番ショックだったのはラッセル・クロウのおやじ化だ。
「ひょっとして……」とは思ってはいたがエンドクレジットを観て確信した。映画「LAコンフィデンシャル」や「グラディエーター」ではあんなに凛々しく、猛々しいかったラッセル・クロウがあんなわがままボディのおやじになっていたのはショックだった。

ソーたちの物語はこれからも続くとのことなので2025年に公開を控える「アベンジャーズ」シリーズ最新作「ザ・カーン・ダイナスティ」でもアベンジャーズの主要メンバーとして活躍してくれるに違いない。


●作品データ
<原題>
・Thor: Love and Thunder
<製作国>
アメリ
<公開年/配信年>
・2022年
<上映時間>
・2時間0分
<監督>
タイカ・ワイティティ
<出演>
クリス・ヘムズワース(ソー)
ナタリー・ポートマン(ジェーン・フォスター/マイティ・ソー
クリスチャン・ベイル(ゴア)
テッサ・トンプソンバルキリー王)
タイカ・ワイティティ(コーグ)
<配信サイト>
・ディズニープラス
ソー: ラブ & サンダーを視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

【映画】「サマリタン」

先日、22歳年下の妻から三行半を突き付けられたというニュースがあったシルベスター・スタローン

御年76歳で34年間連れ添った妻から離婚を切り出される心境というのは一体どのようなものなのだろう。

そして、その76歳で妻から離婚を切り出されたスタローンが主演するのが今回の映画「サマリタン」である。

「サマリタン」とは「ルカの福音書」の「善きサマリア人のたとえ」の話の中に出てくるサマリア人のことを表している。

この映画はある少年の勘違いから始まる。

この少年の勘違いによって私たちも最初からある先入観を持たされたまま映画を観ることになる。これがこの映画の重要なポイントである。

この冒頭からある先入観を持たされる手法のことを具体的に何というのかは知らないが、M・ナイト・シャマラン監督の映画「シックス・センス」やデンマーク映画の「ギルティ」などでも同じような手法が用いられている。

私たちは少年を通して途中から自分たちが勘違いをしていることに気付かされる。この勘違いに気付かされる場面がこの映画の最大の見せ場だ。私もこの心地良い勘違いを大いに堪能した。

それにしてもとても76歳とは思えないスタローンの身体つきやアクションはさすがだった。それだけでもこの映画には一見の価値があると思う。

ぜひ、スタローンにはクリント・イーストウッドのように90歳を過ぎても現役バリバリでいて欲しい。まあ、私ごときが心配しなくても今のままだったら大丈夫だとは思うのだが……。

最後に"サマリタン"ことジョーがサム少年に伝えるセリフの中で私にもとても身に染みたものが2つあったのでここに抜き書きしておくことにする。

僕は怖いと逃げたくなるよ
でも固まっちゃう


逃げるのは賢いぞ
殴り合いはくだらん
人生に関係のない奴と戦って命を落としたらー
バカバカしいだろ
お前の考えは間違っちゃいないさ

サム 1つ言っておく
悪事を働くのが悪党だけなら倒すのは簡単だろう
だが、現実にはー
誰の心にも善と悪の両方があるんだ
正しい決断をするかは自分次第だよ
お前は大丈夫

<原題>
・Samaritan
<製作国>
アメリ
<公開年/配信年>
・2022年
<上映時間>
・1時間42分
<監督>
・ジュリアス・エイバリー
<出演>
シルベスター・スタローン(ジョー)
・シャボン・"ワナ"・ウォルトン(サム・クレアリー)
・ピルウ・アスベック(サイラス)
・ダーシャ・ポランコ(ティファニー・クレアリー)
・ソフィア・テイタム(シル)
<配信サイト>
Amazon Prime Video